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学校のスマホ持ち込み禁止で成績は上がる?研究データで検証

学校のスマホ持ち込み禁止で成績は上がる?研究データで検証

要点: 学校でのスマホ持ち込み禁止は、成績と集中に小さいが確かな効果がある一方、幸福度への効果は明確ではありません。BelandとMurphy(2016年、Labour Economics)は英国の中等学校91校を分析し、禁止後に16歳時の試験成績が標準偏差の6.4%分上がり、成績下位層では14.2%分と効果が大きいことを示しました。OECDのPISA2022では、授業中に他の生徒のデジタル機器に気を散らされる生徒は数学の得点が15点低くなっています。ただしGoodyearら(2025年、Lancet Regional Health Europe)の英国30校の調査では、校則が厳しい学校と緩い学校で生徒の心の健康や睡眠、成績に差はなく、差を生んでいたのは1日の総利用時間でした。禁止は「授業中の注意の奪い合い」を減らす対策としては効くが、生活全体の利用習慣までは変えない、と読むのが妥当です。

フランスは2018年に法律で、オランダは2024年から全国の中等学校で、授業中のスマートフォン使用を原則禁止にしました。英国も2024年に全学校に禁止を求める指針を出し、日本でも持ち込みの是非をめぐる議論が続いています。政策としては急速に広がっていますが、「禁止すると本当に成績や集中が良くなるのか」は別の問いです。この記事では、成績・注意・心の健康の3つに分けて、研究が示していることを整理します。

成績:英国91校の比較

もっとも引用されるのは、BelandとMurphy(2016年、Labour Economics)の研究です。英国の4都市にある中等学校91校について、スマホ持ち込みを禁止した時期が学校ごとに異なることを利用し、禁止の前後で16歳時の全国試験(GCSE)の成績がどう変わったかを比較しました。

結果は、禁止後に成績が標準偏差の6.4%分上昇というものでした。効果量としては小さいですが、授業日数に換算すると1年で約5日分の学習に相当すると著者らは述べています。

重要なのは効果の分布です。成績を事前の学力で分けると、下位層では標準偏差の14.2%分の上昇があった一方、上位層ではほぼ効果がありませんでした。もともと集中が途切れやすい生徒ほど、注意を奪うものを取り除く恩恵が大きい、という解釈です。禁止は平均を少し上げるだけでなく、格差を縮める方向に働いていました。

ノルウェーの中学校を分析したAbrahamsson(2024年)も、禁止を導入した学校で女子の成績(GPA)が上がり、いじめの報告が減ったと報告しています。ただしこれは査読前の論文で、効果の大きさは英国の研究より控えめです。

注意:置いてあるだけで減る

なぜ禁止が効くのかを説明するのが、注意の研究です。Wardら(2017年、Journal of the Association for Consumer Research)は、約800人の大学生に、自分のスマホを「机の上に伏せて置く」「バッグやポケットに入れる」「別室に置く」のいずれかにしてもらい、ワーキングメモリと流動性知能の課題を受けさせました。電源は全員オフです。

成績は、別室に置いた群がもっとも高く、机の上に置いた群がもっとも低くなりました。参加者自身は「気が散っていない」と答えていたにもかかわらず、です。著者らはこれを「脳の流出(brain drain)」と呼び、スマホを使わないよう抑えること自体に認知資源が割かれると説明しています。使わなくても、視界にあるだけでコストが発生するわけです。

教室単位のデータでも同じ傾向が出ています。OECDのPISA2022の結果(第II巻)では、数学の授業中に「他の生徒のデジタル機器の使用で気が散る」と答えた生徒は、そうでない生徒より数学の得点が15点低くなっていました。注意を奪われるのは本人だけではなく、周囲の生徒にも及びます。この点は、禁止を個人の自制ではなく教室のルールにする根拠になっています。

注意がそれてから戻るまでのコストは、マルチタスクの記事で扱った切り替えコストと同じ仕組みです。通知を1回見るだけで、直前の内容に戻るまでに時間がかかります。

心の健康:禁止だけでは変わらない

一方で、禁止すれば生徒の幸福度や睡眠まで良くなるかというと、証拠は分かれます。Goodyearら(2025年、Lancet Regional Health Europe)は、英国の中等学校30校の生徒1,227人を対象に、校則が厳しい学校(授業中の使用を禁止)と緩い学校(使用を許可)を比較しました。

結果は、心の健康、不安や抑うつ、睡眠、身体活動、成績のいずれにも、校則の厳しさによる差はありませんでした。差を生んでいたのは1日のスマホとSNSの総利用時間で、利用時間が長い生徒ほど各指標が悪化していました。校則が厳しい学校の生徒も、学校の外での利用時間は緩い学校の生徒とほぼ変わらなかったのです。

この結果は、Beland & Murphyの成績への効果と矛盾しません。学校での禁止は「授業中の注意の奪い合い」を減らす対策としては効くが、1日の総利用時間を減らす対策ではない、と分けて考えるのが正確です。生活全体の習慣については、ドーパミンデトックスの記事や集中力の記事で扱っています。

研究から言えること・言えないこと

以上をまとめると、次のようになります。

  • 言えること: 授業中の禁止は成績を小さく上げ、効果は成績下位層で大きい。スマホは使わなくても視界にあるだけで認知資源を奪う。周囲の生徒の使用も得点を下げる
  • 言えないこと: 禁止だけで心の健康や睡眠が改善する。総利用時間が減る
  • 未確定: 効果の持続性、小学生への適用、禁止の方法(回収・ロッカー・電源オフ)による差

研究の多くは中等教育(日本の中学・高校に相当)が対象で、対照群の取り方も観察研究の範囲です。UNESCOの2023年報告書は、こうした証拠をもとに「学習を支えない使い方をされている場面では禁止すべき」と勧告しつつ、禁止だけでは不十分とも述べています。

自分の集中に置き換えると

これは学校だけの話ではありません。試験や作業中にスマホを机の上に置いておくかどうかは、Wardらの実験そのものです。集中が必要な場面では、電源を切るのではなく別の部屋に置くのがもっとも効果的です。

スマホの影響を受けやすいのは、注意を持続させる処理速度と、途中の情報を保持するワーキングメモリです。分野ごとの自分の傾向を知りたい場合は、BrainRankの無料IQテストが空間推理・パターン認識・論理的推論・分類能力の4分野・20問(約10分)を項目反応理論(IRT)で採点し、分野ごとの傾向を返します。受けるときはスマホを別の部屋に置いて、条件を揃えてみてください。結果は娯楽・自己理解のための推定値であり、医療・診断目的の検査ではありません。

よくある質問

学校でスマホを禁止すると成績は上がりますか?
英国の研究では、禁止した学校で試験成績が標準偏差の約6%分上がり、成績下位の生徒では約14%分と効果が大きくなりました。上位層にはほぼ効果がありません。集中が途切れやすい生徒ほど、注意を奪うものを取り除く効果が出やすいと解釈されています。
スマホを机の上に置いておくだけでも集中は落ちますか?
落ちます。Wardら(2017年)の実験では、自分のスマホを電源オフで机の上に置いた群は、別室に置いた群よりワーキングメモリ課題の成績が低くなりました。使っていなくても「使わないようにする」ことに注意の一部が割かれるためと考えられています。
禁止すれば生徒の心の健康も良くなりますか?
そこは証拠が分かれます。ノルウェーの研究では禁止後に女子の心理的な受診が減りましたが、英国30校の2025年の調査では校則の厳しさと心の健康に差がなく、関係していたのは1日の総利用時間でした。学校での禁止だけでは生活全体の利用習慣は変わらない、というのが現時点の見方です。

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編集・免責事項

BrainRank編集部

本記事はBrainRank編集部が、CHC理論・項目反応理論(IRT)など心理測定に関する学術文献を参照して執筆・編集しています。記載している統計・割合は、平均100・標準偏差15の正規分布モデルに基づく算出値です。

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